サタンの誘惑を断つ


朝仕事に出かける時には息子に「ママをよろしくね」と必ず声をかけていく。ママは女の子だから、男の子である君がパパの代わりに守ってあげるんだよ、という意味。しかしそんな2人の笑顔を楽しみに帰って来ると険悪なムードが漂っている時がある。

この日も何があったのか玄関を入るとそういうムードが漂っている。「どうした?」と聞くと、息子がいきなり「パパごめんなさい」と泣きながら謝りだした。ママも怒っている。こういう時は却って冷静に話を聞いてあげる余裕が出来る。

子ども向けに○○○カード、○o○○○○○ー○ カードというのがある。小学生の家庭なら、特に男の子のいる家なら必ず何枚かはあるはずだ。定期券くらいの大きさで、いろいろなキャラクターの絵が描いて ある。そこに点数や能力が書いてあって、カードを使って戦いをすることが出来る。これが子ども達の間ではやっている。カードは何枚かセットになってビニー ルの中に入っているので、中身を確かめてから買うことは出来ない。であるから高得点の強いカードが欲しい時は、それが出るまで買い続けないといけない。値 段も手が出ない、という程ではないので、おねだりすればジジババは簡単に財布を開けてくれる。

息子も持っているが、いつの間にか一箱では入り きらないような数になった。そんな手持ちのカードを何枚持っているかよく数えている。一緒に遊ぼうと言われて遊び方を教わった事もあるのだが、興味がない のでよく覚えられなかった。近所のフリーマーケットに行くと、子どもたちが出している店には必ずこれが並んでいる。飽きてきて売る子もいるらしいが、いら ないカードを売って、それを軍資金にしてまた強いカードを買うようだ。息子もフリマに行くと、必ずカードを買ってくる。

図柄は多分に悪魔的なものが多い。よくもまあ、 というほどおどろおどろしいものがある。図柄ではなく、カード自体にもサタンが潜んでいるようだ。沢山のキャラクターがあるので、1枚でも持っている子ど もは次から次へと欲しくなって買い集める。際限のない収集欲にとらわれる。同じカードを複数枚持っている時には、仲間同士で交換ということも行われる。

最初の問題はこの交換という事だった。まだ訳の 分らない頃に息子は騙し取られたような事があった。近所の子なので返してくれと言いに行かせたが、なくした、とかもうだれそれにあげてしまったとか、要領 を得ない。で、泣くことになる。それを期に収集をやめるのかと思ったら、そうもいかなかった。

買えない場合は盗む、という行為をさせる。これ も無防備な息子は、休みの日に小学校の校庭でこのカードを使ってゲームをしていた。その後、ナップザックにしまって他の遊びに熱中していた間にカードを全 部盗られてしまった。休みとはいえ学校で起きたことなので先生に報告したが、休みの日で、小学生以外も校庭への出入りが可能ということで、先生の方でも犯 人探しをするわけにもいかず、どうしようもないという状態だった。欲しがっている子に見せびらかして、盗もうという行為に至らせた方も悪い、というような ことであるのだと思う。盗られた中にはジジババに買ってもらったばかりのカードも入っていた。

次のフリマに一緒に出店しないか、と誘われた。 子ども達同士で店を運営させれば良い社会勉強にもなるので賛成する。息子は昔遊んでいた玩具やカードを売るという。その為に部屋を整理していたらずいぶん 出てきた。カード収集をいい加減やめさせたいと思っていたので丁度良い。息子もそろそろカードに飽きてきたのか、フリマでのカードの売り方を見て来たから なのか、あっさり手放すという。

で、今回のことに話はつながる。妻の実家に遊び に行った時に、本を買うからというのでお小遣いをもらった。普段小遣いはまだあげていないので(まだ自由にお金を使わせるには心配な点が多い)、お金をも らったら必ず報告するように言ってあるのを黙っていた。そして本を買わずに近所の子に少し離れたお店まで連れて行ってもらって、手持ちの現金を使い切って カードを買った。おまけに一緒に行った子にはパパやママに怒られるから、と口止めまでした。こうなると本人は後ろめたいので、遊び方も隠れてということに なる。パパママの目を気にしてこそこそ遊んでいるが、その方が却って目立ってしまう。

そこをママに見つかった。ママは見たことのない カードがたくさんあるので問いただすと、隠れて買いに行ったことを白状した。カードを持っているからそういう悪い事を考えるようになるのだから、いっその こと捨ててしまおう、とママが言うと、それだけは勘弁してくれと言って泣いた。パパに怒られるのが何より恐い息子は、こういう状態が発覚したことを泣いて いる。

妻子の間でそんな問答を2時間くらいやった後に パパが帰ってきた。パパは前日息子に頼まれたテニスラケットのオーバーグリップを、忙しい仕事の合間に指定の色を探して買っておいた。そして息子の喜ぶ顔 が見たくて、起きている時間に間に合うように急いで帰って来た。ところが喜ぶ顔どころではなく、泣いている。

ゆっくり話を聞く。今度のフリマで全部売りに出 すつもりでいたが、ついつい強いカードを手に入れて対戦したくて買ってしまったという。子どもの心に働きかけてサタンは巧妙な嘘までつかせる。これは子ど もの感覚を麻痺させるサタンの仕業に他ならない。実にひどいやり方だ。これは全て善良な子どもの心に入り込むサタンの罠なんだ、と息子に言って聞かせる。 今回の事で誰が一番悲しむ事になるのかと聞くと、「イエス様」と涙声に答えた。もう明日は怒らないから、今日中に全部言いなさい、と話させる。そういう カードは全部出せというと、もらった1,000円では買えないような枚数のカードが出てきた。サタンの罠に以前からはまっていたらしい。

「もうしません。ごめんなさい」という。一緒に 行って口止めをした子にも謝る手紙を書いて封筒に入れた。口止めまでして悪かったと謝る内容。あぁ分った、もう怒らないからと言うと、妻が3人で祈ろうと いう。パパが巧妙でずる賢いサタンの誘惑や攻撃から息子を守ってくれるようにと祈ると、「ボクも祈る」と息子も今回の事について悔い改めの祈りをした。

祈った後に、「さぁ、一緒に捨てに行くか」と言 うと。すんなり「うん」と言う。これを子どもの承認なしに親が強引に捨てると、一生子どもが傷つくので、納得させてから一緒に捨てに行くことにする。幼稚 園の時に使っていたお道具箱に綺麗に並んでいたカードを紐で縛って、入りきらないものはビニールの袋に入れて持って出る。先にお詫びの手紙を友達の家に置 きに行く。いないのでポストに入れてきた。カードを入れた箱はずっしり重い。ごみ箱までは息子が自分で持って行って、自分で捨てた。最後に「じゃあね。今 まで有難うね」とお別れを告げていた。ずっと欲しくて、いろいろ集めてきて、毎日のように数えていたカード。高得点の大切にしていたものもあるだろうに、 きっぱりと捨てて来た。息子のこの勇気ある行為を親としてもすごいな、と感心する。

捨てた後はすっきりしている。やはりサタンから 開放されたのであろう。今までの涙顔がすっかり笑顔だ。帰り道で攻撃的ではないカードもあるのを思い出したが、それは他の友達が集めているので、その子に 皆あげるという。翌日妻に聞くと、「パパが一緒に行ってくれたから、勇気をもって捨てることが出来た」と喜んでいたという。

寝る前に息子のテニスラケットにグリーンのオーバーグリップをママが巻いてあげる。巻き上がって恰好良くなって行くのを息子は目を輝かせて見ている。出来上がったのを見てすっかりご機嫌だ。

ぐっすり寝て、翌日には実に晴れやかな顔で起きてきた。そこをぎゅっと抱きしめる。一皮向けたようだ。お互いにそれを喜ぶ。その日は上級生と暗くなるまでサッカーをして遊んでいた。

ネヘミヤ1:11
ああ、主よ。どうぞ、このしもべの祈りと、あなたの名を喜んで敬うあなたのしもべたちの祈りとに、耳を傾けてください。どうぞ、きょう、このしもべに幸いを見せ、この人の前に、あわれみを受けさせてくださいますように。

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