「喜んで受け継いでもらいたいもの」


大学4年生の夏の大会が終わり、9月末、水泳部を引退した息子が寮から戻って来る。入寮時は車に積めるだけ積んで一回で運び入れたが、向こうで買いそろえたものがあるので退寮となるとそうはいかない。元は3人で暮らしていた我が家も、3年半細君と2人で少し広々と生活をして来たので、アパート暮らしで増えたモノが全て移って来るとなると大ごとだ。
息子は4月からの社会人になるので、配属先によってはまた独立することになる。この近所に配属になったとしても、以前も書いたように、来年6月、マサイと細君は親の介護のために今の場所から実家へ移動する予定なので、親子3人で暮らせるのもあと半年ということになる。
この夏細君は息子を迎えるために家中の整理をした。随分捨てた。捨てないことには始まらない。大切にしまいこんでいるものならまだいいが、あることすら気付かなかったものがたくさん出てきた。普段使いには良いもの過ぎるので、20年以上仕舞いっぱなしになっていたものだ。それでも使えるものを捨てるのは忍びない。この点息子はあっさりしている。記念や思い出としてとっておくという事は考えない。息子がいらないと言っているのに、マサイがとっておいた教科書類がある。これもマサイが老後楽しみに勉強したいからと捨てられずにいる。老後とはいったいつかという疑問もあるが、どうしても捨てられない。
父親が検査入院をするので留守番をしに実家に泊まりがけで行った時に、こちらも来年の6月に向けて整理を始めた。押し入れの中のものを全て出してみると山になった。自分の判断で捨てられそうなものを選別してみる。息子の中学の頃のプリントを捨てたばかりだというのに、マサイの中学の頃のプリントが出てきた。随分変色している。高校の時の聖書の教科書も出てきた。大学1年の時に履修した基督教概説のレポートが出てきた。「レポートとしては無難」という評が教授の赤字で書かれていた。まだ簡単な知識としての聖書という程度の理解しかしていない時代のもので、実に生意気なことが書いてある。細君に見せてから捨てる山に種分けしたのだが、約40年後に懐かしいと思うためだけにとっておいたことになる。見返して懐かしいと思うのは一瞬で、その上そう思うのは自分だけだ。捨てても何の問題もない。小学校の時のボーイスカウトグッズが紙袋一つにまとまっている。制服などどうしようもない。手旗信号用の赤白の旗や飯盒など一瞬とっておこうかとも考えたが、誰が受け継ぐものでもないので、細君や息子にとっては全て不要なごみでしかない。写真のネガやアルバムが特にそうである。何枚か電子保存をして後は捨ててしまおうと思う。
実家のマサイの部屋は6畳間の長辺いっぱい床から天井までが作りつけの本棚になっている。そこに今まで読んできた本が詰まっていて、マサイの頭の中ともいえる。9月に息子を実家に連れて行った時、マサイの本棚を興味深そうに見ていた。そこからマンデラ大統領の本や、聖書解説の本を抜き出し、マサイが高校一年生の時に教科書として買った口語訳聖書を見つけ、新改訳より読みやすいと言われて持って帰って来た。受け継いでくれるものはとっておいて良かったと思う。
あまりに多くのものを抱えていた事に驚いたが、捨て出すと止まらなくなった。押し入れにしまった時にはとても大切なものであったはずなのだが、しまった事を忘れた時点でそういう思いも消えてしまうものなのかもしれない。随分無駄遣いしたものだ。
伝道者の書にこうある。

5:15 母の胎から出て来たときのように、また裸でもとの所に帰る。彼は、自分の労苦によって得たものを、何一つ手に携えて行くことができない。

片付けをしながらこの聖句が浮かんできた。定年退職後は買ったきり読んでいない本を読むのが楽しみなのだが、本棚の本を全て引き継げと言われたら息子はさぞ困るだろう。今では手に入らない絶版本もあるが、次世代が喜んで欲しがるものではないように思える。
喜んで引き継いでもらえるもの以外を全てそぎ落として行く生活というのが、老境で目指すものなのだろうか。究極は聖書一冊だけ残せばよいかと考える。息子は既に持っているが、それが一番喜んで受け継いでもらいたいものである。今回の片付けを通して改めて発見したことであったが、とても嬉しい発見だった。神様、感謝します。

伝道者の書
5:18 見よ。私がよいと見たこと、好ましいことは、神がその人に許されるいのちの日数の間、日の下で骨折るすべての労苦のうちに、しあわせを見つけて、食べたり飲んだりすることだ。これが人の受ける分なのだ。
5:19 実に神はすべての人間に富と財宝を与え、これを楽しむことを許し、自分の受ける分を受け、自分の労苦を喜ぶようにされた。これこそが神の賜物である。
5:20 こういう人は、自分の生涯のことをくよくよ思わない。神が彼の心を喜びで満たされるからだ。