「ナナハンに決めました」


マサイにはオートバイに対するあこがれのようなものがある。自身免許をとる機会がなかったのだが、大型のアメリカンタイプでゆっくりツーリングというのに憧れていた。しかし興味を持っていた昔は、オートバイイコール暴走族的な見られ方もされていたころだし、危険視されていたし、してきた。その上身近なところでオートバイの事故が2件発生した。一人は中学の同級生で、停車中の車に400ccのバイクで突っ込んでしまった。もう一人は取引先の御子息で、大学でラグビーをやっていたがバイク事故を起こした。2人ともに健康で頑丈な若者だったが、オートバイ事故で大切な命をなくしてしまった。親御さんの悲しみや如何にと思うと涙が出て来る。その印象が残っているので、小さい頃から息子にはバイク禁止を言い渡してあった。
普通自動車運転免許を取ると50cc以下のオートバイに乗れるようになる。息子は大学入学前に免許を取った。大学に入ると朝練のプールが寮から離れている。入学直前に朝練に参加させてもらった時は、先輩の運転する中型免許で乗れる大きなスクーターで連れて行ってもらった。3時起床での移動は、かえって自転車では危険。距離も自転車では辛いほど離れている。この時入学後の生活について話を聞いて来て、日々の足、移動手段としてミニバイクが必要になるので覚悟してくれという。毎回祈ってから乗ることを約束して、50ccのバイクを大学入学前に購入した。マサイとしては苦渋の決断であった。
納車の前日が雪になった。家までの坂は今でも強烈に印象に残っているほどの積雪状態で、スキー場のようだった。ソリがあれば夜を徹して遊べそうなくらい。膝まで雪に埋もれながら帰った。その翌日朝からスコップを手に、雪かきをこの共同住宅の駐車場から駐輪場までやった。息子のミニバイクを寮のそばのバイクショップまで取りに行く日だったので熱心にやっておいた。初の公道運転が雪の解け残った道で危険なので、マサイが代わりに取りに行ったのだが、マサイは最近自転車にすら乗ったことがない。というのに、初めての道、初めてのミニバイク、道路は雪が解け残り、ところどころ凍結が心配、という条件下での運転となった。無謀な計画だった。初めてのヘルメットはメガネの弦がなかなか入らず、操作方法も分からず、当然バイクは思うように動いてくれず、路肩にはかき分けた雪が積もっている、マンホールはどれも凍結していて滑りそうだ。半泣き状態で祈りながら、10km以上の道のりを走って帰って来た。
息子は雪かきをして綺麗になった団地の駐車場で行ったり来たりしてバイクの練習。普通はこういうことをしてから公道に乗り出すものだ。エンジンのかけ方とハンドルロックのし方を説明されただけで、いきなり時速50kmの2車線の公道へ乗り出したのは、無謀としか言いようがない。後から考えてもゾッとする。
息子はその後まだ入学前、夕方のトレーニングからの帰り、センターライン上でブレーキをかけて転倒したと興奮して帰ってきたことがある。何が起こったか分からなかったらしい。幸い後続車がいなかった。センターラインや横断歩道上でのブレーキが危険であることをまず学んだ。入学後はやはり皆同じように慣れないバイクの運転で、朝連へ向かう時に自爆事故で怪我をした仲間も数人いたらしい。二度と運転したくないと思っていたが、息子がインフルエンザにかかった時に駅前の駐輪場から寮の駐車場まで代わりに運転して行ったことがあった。これが2度目の運転だったが、この時も緊張度合いはMAXだった。危険であることに変わりはない。マサイは毎日バイクの運転については祈って来た。事故、事件、怪我、違反、盗難からお守り下さい。その後息子は毎日練習や学校の行き帰りに運転をしていた。駐禁が2度、盗難騒ぎが1度、ヘルメットの盗難が1度、挙動不審の車にまどわされたもらい事故が1度あった。家に遊びに来ても寮に帰るまで心配でしようがない。ラインで帰宅を知らせて来てやっとほっとする。
このミニバイクには2年半乗った。仲間内では中型自動二輪の免許を取って、250〜400ccに乗っているのがいるらしい。昔のように大型バイクイコール暴走族という見方もなくなってきた。30km/h制限の50ccに比べ、法廷制限速度が出せるので、移動時間が違うという。昔から免許を取るなら応援すると約束をしてあった。矛盾するようだが、マサイとしては最初のポリシーがあるから、ライセンス習得だけを考えていた。免許さえ持っていれば、いつでも運転はできる。しかし年を取ってからでは恐怖が先に立ってしまう。マサイ自身のことを考えると、免許は取れる時に取っておかないと後で後悔する。ということで自動二輪の教習代は応援しようと前から言ってあったが、中免と限定しておかなかった。
どうせなら大型自動二輪の免許を取りたいという。寮の近所に大型が取れる教習所があるらしい。教習料特別割引のチラシが丁度ポティングされていた。で、一旦中型を取って大型にステップアップするのかと思ったら、最初から大型自動二輪の免許を取るという。教習時間も中型17時間に対して、大型は31時間と多い。その代わりどんな排気量のバイクでも乗れるようになる。冒頭に書いたようにマサイには大型バイクへのあこがれがあった。働き始めてから免許を取るのは難しいだろうからと、予定していた以上の教習料だったが応援することにした。
大型の教習なので750ccを使う。今年新型を導入したばかりということだったが、今までの教習用定番バイクと違って大きく見えない。重そうにも見えない。しかし50ccがいきなり750ccになるので、やはりパワーが違うという。ほんの数ミリスロットルを動かしただけで、加速するという。教習が終わって50ccで帰る時、目いっぱいスロットルを回してもスピードが出ないので、あまりのパワーの違いに笑ってしまった、と報告してきた。
教習はスムーズに行った。卒業検定も一発合格。6月23日から教習を開始して、7月24日に教習所卒業。翌25日に運転免許センターで更新して、免許に大型自動2輪が加わった。ギア付きの大型に乗ってみると、ほしくなってきたという。当然の成り行きといえばそうなのだが、マサイは免許までしか想定していなかった。後輩にバイク雑誌を借りてきて見ているという。親子でアメリカンが良い、と意見は合致しているのだが、モトクロス用のようなモタードも気になるらしい。乗車姿勢が前傾になるスポーツタイプや一般的なネイキッドタイプ、スクーターは興味がないらしい。スピードを出すつもりもないし、ゆったりと走るクルーザーとして楽しみたいという。
マサイは昔からアメリカンタイプのバイクが好きだった。自分でも免許を取る機会があったら乗ったのだろうか。それはそれで世界が変わったかもしれない。ただバイクの事故が身近であったので、危険なものを避けていた。息子は教習所の卒検直前に、先輩たちも買いに行ったというバイクの中古専門店へ行って、アメリカンタイプを探してもらったという。すっかり買う気でいる。大手チェーン店なので、カタログから気に入ったものを選ぶと全国から取り寄せてくれるらしい。良さそうなものをLINEで写真を送ってきた。相談事はいつもこういう形で送られて来る。店にいて返答を待っているだろうからと、マサイは仕事中でもすぐにアドバイスを返すことにしている。250ccか400ccくらいを買うのかと思っていたら、いきなり1100ccの画像を送ってきた。チョッパーハンドルで、見た目いかにも昔でいうところの「族」。そんなハンドルにしてしまったから売れないらしく、ちょっと安い。本人それでも気に入ったらしい。大型アメリカンクルーザーも1100ccになると随分大きくなる。それだけでも心配なのに、このハンドルは尋常ではない。親としてさすがにこれには難色を示す。
金はどうするのかと思ったら、ローンなら月々1万円という表示に騙されたらしい。1万円くらいならアルバイトをすれば返済可能と言われ、世間知らずでローンの仕組みも分からない学生は簡単に引っかかってしまった。すっかりその気でいる。見積もりを良く見てみると、現金買い取り価格に対して、ローンで全て支払った場合の合計額は、25%も高い。それだけ余計に払うことになる。現金買い取り価格を1万円ずつ分割支払いするのだと簡単に考えていたようだが、表示価格に対して、実際にいくら払うことになるのかその現実を教えると、はっと驚いていた。その他ガソリン代や、保険代、車検代、重量税など支払うものはたくさんある。結局、親が立て替えて一旦全額支払い、月々1万円ずつ返済していくという形にできる?と言われて、そこに落ち着いた。良い社会勉強だった。
後日またバイク屋さんへ行って、黒のアメリカンを全部検索してもらった。それが細君と都美術館でポンピドゥー展を見た後、上野でデートをしていた時だったが、どんどんラインに写真が送られてくる。細君と見てアドバイスを送り返す。YAMAHA、HONDA、KAWASAKI、750cc〜1100cc。排気量が大きくなればなるほど危険性も増すような気がして、出来れば400cc位のものを選んでほしいのだが、せっかく大型免許を取ったのだから400ccという選択肢はないらしい。アメリカ車はどこまでも続く真直ぐな道を走るように開発されたもので、日本のように小回りを要求される道路には向かないと書いてある。それを日本仕様にしたのが、日本のメーカーのアメリカンタイプ。性能は安心できるし、デザインもよし。店員さんといろいろ話しながら送ってきているらしい。どれが良い?と聞いていながら、だんだん自分の中では750ccに傾いているのが分かる。初めてでいきなり1100ccを選ぶのより安心できる。ハンドルもチョッパーでない。750ccでも随分大きなバイクだ。前のオーナーが綺麗に使っていたので程度も良いという。帰っていろいろ調べてみると、発売当時限定1,000台生産の貴重なものだった。良いじゃないの、と連絡をすると、早速取り寄せてもらうことにしたという。
7月25日、試験場で大型免許をもらってきた後に学校へ行ったが、取り寄せた750ccが入ったということで帰りに寄って見てきた。綺麗でびっくりしたらしい。料金は提示額からまけてもらえなかったが、決めたという。今まで乗っていた50ccは、タイヤやブレーキなどあちこち支障をきたしていたらしい。それも引き取ってもらえるという。苦渋の選択から2年半、また大きな選択をすることになった。どうしても買ってはいけないと言えなかった。購入の話が出てから主に安全を祈り、この選択が間違っていたら止めて下さいと祈り続けてきた。小さなミニバイクに乗るより、かえって存在感の大きなバイクに乗っていた方が安全かもしれない。今後の運転、交通事故について神様にお祈りをする。ゆったりクルージングするタイプなので、スピードを出したり、高速に乗って遠出したり、ということは考えていないらしい。細君が乗る前には必ず祈るように再度伝えて約束をしていた。バイクの事に限らず、どんな時にも神様を知り、求めていれば、あらゆるサタンの攻撃や誘惑から守られる。常に祈り続けていてほしい。
7月27日、息子は一人で近所の大型バイク用品店にヘルメットを買いに行った。あまりにいっぱいあるので迷ったらしい、映像が次々とラインに送られて来た。アドバイスは送ったが、最終的には本人がバイクの色と合わせたものを選んだ。バイクは購入の意思を伝えて手続きが始まった。しかしこのあと保険、重量税、カバーなどの付属品、等々、自分で最初に考えていた以上に出費が重なることが分かってきた。物を買うということがどういうことか、良い社会勉強になったようだ。マサイの応援は教習所の規定時間分のみで、途中試験に失敗したりした場合は自分で払うように言ってあった。余分な出費もなく卒業できたが、親の応援はここまで。バイク購入については全て自分で払う。親への4年2カ月にわたる返済は8月から始まった。
なかなかナンバープレートが来なくて納車にならなかったが、やっと連絡が来て取りに行った。その夜1時間くらい一人であちこち走ってみたという。教習所で乗っていたタイプとは別物であるが、運転していても全然疲れないので気に入ったという。マサイは早く見たくてしようがない。乗って帰って来た時にまたがらせてもらう。重いものだ。思ったより大きく、安定感はある。あこがれの大型バイクに56歳にしてやっとまたがった。息子もこんなのに乗るようになったかと、感慨深いものがある。帰って行くのを見送ると落ち着いてゆっくりと走って行った。安心感を持って見送れた。
バイクの購入については祈ってきたことなので、後は神様に委ねます。運転については細君と日々祈り続けていきます。神様、安全な運転環境をお与えください。あらゆる事故、事件、怪我、盗難、違反、故障、悪戯からお守り下さい。そしてこの大型自動二輪を息子にとって有意義なものとしてください。よろしくお願いします。

ローマ人への手紙
8:28 神を愛する人々、すなわち、神のご計画に従って召された人々のためには、神がすべてのことを働かせて益としてくださることを、私たちは知っています。

詩篇
144:2 主は私の恵み、私のとりで。私のやぐら、私を救う方。私の盾、私の身の避け所。私の民を私に服させる方。

144:12 私たちの息子らが、若いときに、よく育った若木のようになりますように。私たちの娘らが、宮殿の建物にふさわしく刻まれた隅の柱のようになりますように。

歴代誌第一
28:9 わが子ソロモンよ。今あなたはあなたの父の神を知りなさい。全き心と喜ばしい心持ちをもって神に仕えなさい。【主】はすべての心を探り、すべての思いの向かうところを読み取られるからである。もし、あなたが神を求めるなら、神はあなたにご自分を現される。もし、あなたが神を離れるなら、神はあなたをとこしえまでも退けられる。