「こんな痛みは初めて」


忙しいなぁと思いながら毎日働いていた。半年に一度の決算は、担当者が代わって初めての中間決算なので気ばかり焦っている上に、それだけに集中できる訳もなく、来年3月まで半年間期間限定で預かる仕事もある。こちらは全く任せきりにしていた別世界の仕事。とても丁寧なマニュアルを作ってくれたので、それを見ながら進めて行けば良いのだが、責任あるものなので、期日を間違えずにして行くことへの気苦労はある。当然自分だけしか出来ない仕事はある。長い間悩んでいた大きなものは9月末に何とか片付けた。それだけで負荷は十分以上であるというのに、いろいろな会社が半期決算前に駆け込みで話を持ってくる。日常の細々としているものも湧き出て来る。電球が切れている、異動者の机の設置、パソコンのランケーブルの配線、などなど。これら全て投げ出せたら気分が良いだろうなぁ。定年を迎えたらこういう責任全てから解放されるはずだから、それを今からとても楽しみにしている。あと5年半、給料をもらうのは66回、と考える毎日であった。
中間決算の前半の山場である金曜日。終電を覚悟していたが、スタッフの働きによって早く切り上げられたので、23時過ぎには帰って来られた。土曜日は自分の仕事に集中できるので、翌土曜日は出勤してゆっくり仕事を進めよう、この土曜日を乗り切って日曜日の朝ジョギングをすれば、スッキリできるだろうと思っていた。帰るまで細君がお弁当につけてくれたレーズンの入ったチョコレートでしのいだので、23時半頃にやっと夕食。鮪、鯛、イカの刺身を中心とした和食だった。食後しばらく時間をおいて、入浴後就寝。0時半を少し回っていた。
いつも通りだとすぐに寝付くのだが、尿道に少し、痛みとまではいかない違和感があって、細君の寝息を聞きながらそれを気にしていた。その後眠れたのだが、腹痛で目が覚める。へその下、やや右寄りが痛む。上を向いて寝ていた姿勢を右向きにして、体をくの字にしてみても痛みは変わらない。痛みが随分増してきた。中途半端な痛みではない。夕食の刺身は金曜日の夕方スーパーで買ったもので、古くはなかったし、美味しく食べた。消化が良くて体に良いものと細君が考えて作ってくれた食事だ。トイレに行ってみると便意はないし、何も出ないし、吐き気もない。食あたりではないらしい。
ところが痛みはどんどん増し、トイレから這い出るようにして廊下の硬いところにうずくまる。柔らかい布団の上より、硬いヒンヤリしたところを探す。思わず声が出る。胆石、尿道結石という言葉が頭に思い浮かぶ。石が出ると七転八倒の痛みだというのを何人からも聞いてきたし、何よりマサイの両親ともにこの石で救急車や入院騒ぎをしている。痛みにうなっていたら細君が起きてきてくれた。咄嗟に時計で時間を確認することと、祈ることを頼む。
1時10分だった。痛みが始まったのは1時くらいになるのか。ほとんど寝て間もない時間だ。廊下でうずくまってうなっていると、体が熱く、走り終えたばかりのように体中から汗が吹き出てきた。盲腸かというが、盲腸なら同じ右でももっと下のはずだ。細君が救急車を呼ぶかという。救急車=入院となると、今の仕事はどうなる。自分しかできないことがあまりに多すぎる。明日も出社しないといけないし。このまま収まってくれれば一番良い。細君に祈ってもらって、強烈な痛みが少し薄らいだ。石ならこうして動かずにいるよりは、歩いた方が移動してくれるかもしれないと、家の中をウロウロ行ったり来たりし始める。しかし今まで味わったことのない種類の痛みはまたやって来て、再びうずくまる。石なら水を飲んで押し出せば何とかなるかもしれない、と水を飲む。
1時15分まで様子を見る。しかし堪えられる痛みではなく、「いてぇ〜」と声を出さずにはいられない。チクチクでもズーンでも差込でもない、今まで味わったことがない痛み。痛みで顔が歪むのが分かる。家の中を歩きながらバッグに健康保険証と免許、スマホ、病院に行けば点滴になるかもしれないので、暇つぶし用のイヤホン、汗だくなので着替え用の服、家の鍵を入れる。頭はしっかりしている。細君は祈ったり、スマホでいろいろ調べたりしてくれている。もう一度救急車を呼ぶかと聞かれる。いや、1時半まで待とう。入院してしまった後に発生するであろう仕事上の問題と人の顔が頭にいろいろ浮かんでくる。もう一度トイレに行くが出ないものは出ない。細君が顔が真っ白だというので鏡で見てみると、確かに白い。
やっぱりダメだ、病院へ行こう。仕事はどうにかなるだろう。結局細君が夜の街を車で病院へ急いでくれた。後部座席にうなっているのがいるので、細君は随分緊張して運転したという。途中車の振動で吐き気がしてきて、車を止めてもらって車外に出る。3度えずくが何も出ない。終電の行き過ぎた夜の街は奇妙な夢の中にいるような気にさせる。痛みは周期的に休まる時があるので、その時に自分でも祈る。
半年ごとに定期検診をしている病院に着く。やっと夜間救急の窓口から建物に入って安心したら、工事で電源を止めているので、何もできないし、先生もいない、少し離れた大学病院まで行けるかという。痛みに耐えてやっとここにたどり着いたのに、たらい回しにするのか、と普段なら怒りが口をつくのに、痛みでそれどころではない。そこへ行けば絶対に見てくれるのかと念を押すと、電話をしてくれた。今痛みに悶絶している人が行くから〜と喋っている。痛みに悶絶していると分かっているのなら、どうにかここでしてくれと言いたかった。細君にまた夜の街を走ってもらう。
真っ暗な通りを曲がって夜間救急外来と書いた入口から入ると、受付の前の椅子にはおでこに包帯を巻いた人を何人かが取り巻いて説明を聞いている。事故だったのだろうか。包帯から血がにじみ出ている。そんな神妙な人たちの横で、いてぇ〜とうなっているのは、妙に申し訳ない気がした。
痛みはここに着いた時点でへその下に移っている。石が移動したのだろうか。痛みは周期的にやって来る。我慢できる痛みではない。座りながら看護師さんに体温や血圧を測ってもらっている時に痛みのピークがやってきた。車を置いた細君が入ってきた時には強烈な痛みによる吐き気を懸命にこらえていた。しばらくトイレに行かれないだろうからと行っておく。少し出た。車椅子を押して女医さんが来た。誰が乗るのだろうと思っていたら、これに乗れという。そのまま手術台へ。細君は受付前で待機。そこで祈り続けてくれていた。
手術室で体を伸ばして横になると、不思議に急に体が楽になった。何人もが周りでせわしなく動いている。体温を測る。血圧を左右の腕で測る。採血をする。点滴を腕に取り付ける。その間いろいろ何度も繰り返して聞かれる。年齢、いつから痛くなったか、痛む場所は、何を食べた、下痢は、嘔吐は、かいた汗は冷や汗か脂汗か、アレルギーはないか、家族の既往症は、薬アレルギーは、血圧が高いと言われたことは、煙草は、酒は、医者に通っていることはないか、便も尿も出すのに問題はないか、色は。受け答えをしているうちに自分がどれほど健康な人間なのかを再確認しているような思いで、どんどん冷静になっていく。普段から脈拍が遅いと言われたことはないかと聞かれる。初めて言われたが、走っているうちにスポーツ心臓になったのだろうか、とこれが妙に嬉しかった。
胃部のレントゲンを複数箇所撮影、その頃には腹部の強烈な痛みは引いていた。かかとを両方強く叩かれても、腹部の触診にも痛いところはない。超音波(エコー)検査でも石は見つからなかった。小水をとってみると血尿ではない。石が出たとすると、血が混じることがあるようで、期待したが、赤い色は出てこなかった。心電図も異常なし。心筋梗塞系も問題ないという。
受け答えをしているうちに痛みは感じなくなってきた。一体どこに行ってしまったのだろう。ここに入る直前の尿で石が出でしまったか。あまり痛くないというので医者が困っている。こちらもバツが悪くて仕方がない。血液検査の結果が出るまで待てという。細君が入ってきた。痛みで顔面蒼白になって、ものすごい汗だったと説明をしてくれている。ここに来て最初に測った血圧上が180を超えていたという。通常120-70というくらいなのに、そんな上がったのは人生初めてだ。血圧は嘘をつかないということで、やっぱり何か体に異常があったのは確かなようだ。それが急に引いたらしい。
血液検査の結果が出たが異常はない。医者が悩み始めた。診断したからには結論を出さなければいけない。腎臓の機能で少し数値が高いところがあるという。これは毎年の人間ドックで言われたことはない。白血球の値が高いと言うが、これは人間ドックで言われたことがある。初めて意見が合致して医者は嬉しそうにしていた。が、そこだけ。
結石の場合の初期症状として、背中や脇腹に筋肉痛のような痛みを言っている人が多い。確かに先週背中が痛かったり、腰が痛かったりということがあったが、今日はどうかと聞かれると、今日は別に痛くない。体内に溜まっていた便が、ある悪い箇所を通過したために痛みが取れたのかもしれない。その悪い箇所とは何だろう。聞いたのだが覚えていない。
全てが推測でしかないが、結論は出なかった。痛みが消えたので帰りたくなってきた。点滴はまだまだたくさんある。2時間コースの点滴だったのだろうか。これが終わるまで帰れないのだろうか。後はCT検査をするかどうかだが、痛みがあればその検査をして、石が見つかる可能性もある。しかし痛みがない時にやっても、ということで勧められなかった。痛みが収まっているのなら引き上げますか、ということになり、点滴を外してくれた。
受付で会計を待つ時には、いつもと変わらない状態に戻って、運転を変わってあげようかと言えるくらいになっていた。細君の運転で家に帰ったのが4時少し過ぎ。こんなにすぐに帰ってこられるとは思っていなかったので、感謝のお祈りをして寝る。
細君の祈りと、痛みが消えたタイミングがほぼ一致する。祈りの力に驚く。マサイは祈りによって痛みが取り去られたと信じている。祈りは聞き届けられるということと、主は癒し主であるということは疑ったことがない。主よ感謝します。祈りを聞き届けて下さり感謝します。細君、有難う。祈りと、寝ずに付き合ってくれたことに感謝。
色々な方から心配していただいた。石経験者は思ったより多い。仲間がたくさんいるので痛み度合いを共有できるのは嬉しい。多分石による痛みなのだろうが、そう断定できなかったことが残念。再発しないように祈り続ける。

ヤコブの手紙 5:16
ですから、あなたがたは、互いに罪を言い表し、互いのために祈りなさい。いやされるためです。義人の祈りは働くと、大きな力があります。

マルコの福音書 11:24
だからあなたがたに言うのです。祈って求めるものは何でも、すでに受けたと信じなさい。そうすれば、そのとおりになります。