書店の記憶


FMラジオから流れてきた言葉が妙に頭に残ることがある。マサイは家で朝TVをつけないので、ラジオで天気予報や交通情報というその朝必要な情報を聴いている。

その他にもいろいろな話題が耳に入ってくる。この日のトピックは、東京の書店数が減っている、という。大型書店をあちこちで見かけるので、逆に増えているのかと思っていた。東京に限って言えば、一週間に1軒減だという。オンラインショップの台頭が原因らしい。しかしその後の言葉の方が記憶に残っている。「本屋さんは知的好奇心の集合体である」、という言葉に、ふむふむ、と頷く。マサイはまさにそう思う。

以前近所の本屋に日課のようにして通っていた。通い始めたのは小学生の頃だ。定休日以外に行かない日はない。近所に2軒、大きい書店と小さい書店、駅まで足を伸ばせばもう一軒大きな書店があった。大きな書店といっても、今のような大型書店ではない。個人経営のこじんまりした書店より売り場面積が大きかったという意味である。

大きな書店といえば、マサイの学生時代はやはり神田まで行かないとなかった。始めて神田の書店街に行った時は、その軒数とビルの上から下までが本屋であることに感動したものだ。大型書店に入ると、あまりの知的好奇心の渦巻きにくらくらする思いだった。本屋には計り知れない、未知の世界があって、どんどんそれを吸収できる場所だった。まさに知的好奇心の集合体であった。面白い本との出会いほどワクワクすることはない。貪るように片端から手にとってページをめくってみたが、この世の中にいったいどういう本があるのかということが分からなかった時代、書店めぐりは、まさに知的冒険心も満足させてくれる場所だった。書店には何時間でもいられた。

書店通いは小学生の時に店頭の漫画週刊誌を立ち読みすることから始まった。マサイの家に遊びに行っていなかったら、本屋に行けば必ずいる、と言われるほど入り浸っていた。そして年齢とともにだんだん店の中に入っていった。一般の雑誌にも目を通すようになり、文庫本になった。日本文学から始まって、世界文学へ、新潮文庫から岩波文庫へ、と書店内で立つ棚の位置がだんだん変わって行く。それが美術書になり、専門書、文芸書、哲学書とどんどん書店の奥に入っていった。興味の世界が広がり、新しい世界がどんどん開けてきた。

文学書の中には数々の聖書からの引用が含まれていた。作者や主人公が御言葉の一節を語っている。この頃は読んだ本の気に入ったフレイズをノートに書き留めていたのだが、その中に御言葉が増えて、自然と聖書の知識が増えていった。御言葉との出会いも書店であったわけだ。クリスチャンになる前に通読した新共同訳の聖書も近所の本屋で買った。

時代は変わって今は目的の本が分かっていれば、インターネットで購入という手がある。大好きな本屋さんを駆逐している敵のようなものだ。しかし最近は老眼になって、本屋ではメガネをしたり外したりしないと本が選べない。不便を感じるようになったので、もっぱらこの自宅で注文でき、届けてくれて、送料すらかからない、便利なシステムを利用している。自分が読みたい本は分かっているので、すぐに探せる。ページをめくるように中身を見れるものもある。好きな時間に買い物ができ、最短で翌日には自宅のポストに着いている。この便利さを感じる人が多いので、書店の数が減っているのだろう。

この2〜3年はこのシステムを便利に使っていたが、昨日久しぶりに銀座の本屋へ行ってみた。書店でゆっくり本を選ぶことは随分していなかった。メガネをして背表紙を選んで書棚から取り出し、メガネを外して中身を読む。今までと訳が変わっていたり、字が大きく読みやすくなっていたりする。昔の細かな字がびっしりと詰まっているのとはずいぶん違う。

興味はあったが読まずにいた本を次々と手にとってみる。やはり面白そうだ。読んでおけばよかった。でも今からでも遅くない。あぁこの本も基礎には御言葉があったのか。まだまだ御言葉を伝えている素晴らしい本があるかもしれない。そんな本を見つけて読んでみたい。インターネット書店に決定的にないものは、この新刊本の匂いだ。楽しかった本屋さんの思い出が蘇ってくる。頭の中にいろいろな世界が広がっていく。こんなワクワクする気持ちは久しぶりだ。本屋を出る頃には幸せな気持ちになっていた。知的好奇心もすっかり満足している。自分の世界に戻ったようでほっとした。

箴言 3:19〜23、24:3〜5
【主】は知恵をもって地の基を定め、英知をもって天を堅く立てられた。
深淵はその知識によって張り裂け、雲は露を注ぐ。
わが子よ。すぐれた知性と思慮とをよく見張り、これらを見失うな。
それらは、あなたのたましいのいのちとなり、あなたの首の麗しさとなる。
こうして、あなたは安らかに自分の道を歩み、あなたの足はつまずかない。

家は知恵によって建てられ、英知によって堅くされる。
部屋は知識によってすべて尊い、好ましい宝物で満たされる。
知恵のある人は力強い。知識のある人は力を増す。

月刊マサイで引用している聖書本文は、新改訳聖書第三版(©新日本聖書刊行会)を使用しています。
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