おじいちゃんって呼んだことはないんだ


夏休みの一日、細君とアメ横で買い物をしていたら、携帯に電話が入った。雨の中、店の軒下に避難して出ると、父親からで、いきなり、「で、来るなら飯はどうする?」と言う。何のことか一向に要領を得ない。よく聞いてみると、非通知設定でマサイから電話が行ったことへの返信らしい。

電話はしていないし、自分の父親に電話をかける時に非通知設定にする息子もいないだろう。よく聞いてみると、息子からを装った電話があったようだ。

1回目は昼近く。「今上野にいるから、13時頃に行っても良いか」元気のない小さな声だったが、マサイと、いとこのSと我が息子の3人を足したような声で、よく似ていたという。父は余り元気がないので心配になって、「Hか?」とマサイの名前を言ってしまったらしい。向うは「そうだ」と答えたという。「いいよ」と答えると、一旦電話は切れた。

声に元気がなかったというので、今度は母親が心配し出した。だいたい普通のメールを送っても、何でそうとるか、と必要以上に心配をする母親なので、父親に「声に元気がなかった」と言われて、心配の世界が限りなく広がってしまったらしい。

2度目の電話がしばらくしてあった。「上野でトラブったので、行くのが遅れる」という。このあたりで父はだんだん怪しいと思い始めている。マサイが上野で仕事をするはずがない、と考えたという。「来るなら飯はどうするんだ」と父が聞くと、みつくろって買って行くが、「おじいちゃんは?」、と切り替えしてきたらしい。

ここにいたって、相手の化けの皮が剥がれる。マサイは自分の父親に向っておじいちゃんと呼んだ事はない。マサイは核家族の一人っ子なので、わざわざ呼称を言わなくても通じる小さな家族なのだ。電話をする時も「もし、も〜し」と大きな声で言えば分かってもらえる。詐欺につながる「オレ、オレ」とすら言わない。父親は「おかし〜な〜」と一言、電話口でつぶやいたらしい。

また15時過ぎに電話をする、と向うが電話切ったので、マサイにかかってきた。これが冒頭の電話である。偶然なのだろうが、驚いたことにマサイは上野にいた。誰かにつけられているのか、何か落としたのかと、心配になったが、そういうことはなかった。

いろいろ考えた。電話をして、相手が出たからこういう会話になったが、出なければ留守だと分かるので、空き巣に入るつもりだったのか。実際実家の近所は空き巣の被害に合った家があると聞いている。しかしそれなら2度電話をかけてくるのはおかしい。今流行の「振り込め詐欺」に違いない。まず相手を確認するような電話をかけ、自分は息子なのだと認識させる。次に問題が起こったと言って、相手に不安を持たせる。次にいよいよ、警察や弁護士を装った役者が電話口にかわりばんこに出てきて、金融機関のATMへ誘導する、というシナリオなのだろう。

警察に電話をするように勧めると、早速電話をかけたようだ。埼玉の父親の住んでいるところは振り込め被害に合う人が多いらしい。先日も銀行のATMの前で捕まえたという。警察は犯人逮捕に協力して欲しそうだったというが、相手はどんな輩か分からない。父親は逆恨みされることに対して慎重な考えであると告げると、それなら丁寧に応対をするようにという指示であった。

金融機関へ行くと、ATMの回りに振り込め詐欺に対する注意を喚起する言葉があちこちに貼られている。マサイが住んでいる団地階段の掲示板にも、「振り込め詐欺に注意」という注意書きが貼ってある。人ごとのように思っていたが、我家もその対象になったか。

どういうリストを使って電話をかけてくるのだろう。不思議なことに、老人世帯であることが分かっていること。おまけに妙齢の子どもがいると分かっている。良く聞いてみると、保険やら、墓地やら、なんともいろいろな誘いの電話が多いという。老人世帯の個人情報リストができていて、それが出回っているのだ。

マサイは自分の親に極力心配をかけたくないと思っているので、元気のない声では絶対に電話をしない。とにかく怪しいと思ったら、こちらから名前は絶対に言わない、一旦切って、必ずマサイか細君の携帯に連絡を取ること、番号非通知の電話には出ないこと、と念を押す。

電話でのやりとりだけでは心配なので、買い物を切り上げて急遽実家へ向う。3度目の電話がかかってきたら、マサイが出て、真相を究明してやろうと待っていたが、結局かかってこなかった。父親のつぶやきで、バレた、と分かったのだろう。金曜日のことで、金融機関が閉まってしまえば、もうその先連絡をして来ないだろうと思って、夕方までいて帰ってきた。もしこれからもかかってくるなら週明けの月曜日だろうと思っていたが、月曜日も無事に過ぎた。

親と離れて暮らしているのが心配になってくる。細君の分析によると、今回はマサイとおじいちゃんがいつもコンタクトを取って、お互いの会話の特徴、考えることを良く分かっていたから、防げたのだという。これが遠く離れていて、普段ずっと交信もないようなら、簡単に引っかかってしまうのかもしれない。親は子どものことになると、冷静な判断力を失う。何とかして助けてやりたいと思うし、金銭的なもので解決できるのなら、と安易に考えてしまう。親にとっては、子どものため、というのは急所なのである。そういう時は、まず祈ることが大切、これを常に忘れないでいたい。

1週間以上たったが、以後はかかってこなかった。主の下で犯罪とは全く縁のない生活をしているつもりでいたが、サタンはあらゆるところを狙ってくるらしい。弱い所が特に狙われるのか。しかし闇は光に打ち勝てない。今回も守られた。主に感謝。

箴言29:25
人を恐れるとわなにかかる。しかし【主】に信頼する者は守られる。

詩篇16:1,2
神よ。私をお守りください。私は、あなたに身を避けます。
私は、【主】に申し上げました。「あなたこそ、私の主。私の幸いは、あなたのほかにはありません。」

月刊マサイで引用している聖書本文は、新改訳聖書第三版(©新日本聖書刊行会)を使用しています。
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