自転車を買う


イギリスのロックグループ、クイーンの曲に「バイシクル・レイスBicycle Race」というのがある。歌詞は、「自〜転車、自〜転車、ボクの自転車に乗りたいなぁ〜、ボクの自転車に〜」と繰り返す。自転車レースの日が近いのか、余程お気に入りの自転車であるらしい。一度聞いたらすぐに覚えてしまう曲である。中学入学祝いに自転車を買ってやる約束をしていので、息子はまさにこの歌詞のように、ずっとそれを楽しみにしていた。

今までスイミングのトレーニングには朝夕細君が車で送迎していたが、中学生になったらトレーニングも兼ねて自転車で行くように話していた。3月から既に土日の朝練には自転車で行かせている。今のは幼稚園にいる時に初めて買ったのから数えて3台目なのだが、いささか小さくなって来た。小学校3年生の夏にトライアスロン大会に出る時に、折りたたみ式自転車ではいかにもまずかろうと買ったものだ。マウンテンバイクなのだが、サドルをいっぱいに上げてももう小さく見える。それで中学に入る前には買ってやろうと随分前に約束をしていた。

4月からは夜のトレーニングにも自転車で行くように、と話してあるので、3月の下旬に買いに行く事にした。マサイも初めて自転車を買ってもらったのが、同じ時期だった。それまでは従姉妹のお下がりの小さいのに乗っていたが、中学入学祝いでやっと新品を買ってもらえる事になった。近所の自転車屋さんに連れて行ってもらい、店内に並んでいるものではなく、壁の高いところにディスプレイしてあった金色の自転車を買ってもらった。とにかく嬉しかったのを覚えている。

そういう経験があるので、息子の喜ぶ顔を想像して、マサイも買いに行くのを楽しみにしていた。イースター礼拝の後、会場近くの自転車屋さんをのぞいてみる。どんなものがあるかをまずチェックするつもりだった。「今日は見るだけ」と息子に言って聞かせてあったのだが、これだけ目の前に並んでいては、気持が高ぶるばかりだったろう。お店の兄ちゃんは親切にいろいろ見せてくれた。自転車が好きな人が集まって開いたような小さな店だが、応対が実に気持ち良かった。

いよいよ今日は買いに行こうと決めた日、まずは少し前に新聞に折込チラシが入っていた近所のホームセンターのバイシクル・フェアへ親子3人揃って出かける。チラシの写真を入念に見ていくつか希望を絞っておいたので、まず目星をつけておいた物を探す。値段も安そうだった。

自転車はホームセンターの一角にいっぱい並んでいるのだが、ずっとあれこれ見ていても、忙しいのか店員さんが一人も近づいて来てくれない。やっと捕まえて壁にディスプレイしてあるものを降ろしてもらうが、店員さんはそれきり行ってしまった。息子は気に入っていたのだが、ドロップハンドルでタイヤも細いのがちょっと心配なので、いろいろ相談したかったのだが、店員さんは誰もそばに来てくれない。チラシにあった他の自転車と2台並べたまま腕を組んでうなっていた。

だんだん心配になって来た。自転車はパンクを始め、買った後もいろいろメンテナンスで自転車屋さんに通う事が多い。マサイの買ったお店も良い親父さんがやっていたので、いろいろ教えてもらったり、その後もパーツを買いに行ったりした。そういうことがこの状態では出来そうもない。店員さんも専門家ではないらしい。他の自転車を見ている息子を呼んで、ここで買うのをやめよう言うと、息子もあっさり同意した。

先日行った自転車屋さんへ行ってみる。この前説明してくれた兄ちゃんはいなかったが、同じように若い兄ちゃんがよく説明をしてくれた。その説明のし方が熱心であり、息子にも大人に対するように丁寧に話してくれた。おまけに先日は気付かなかった恰好良い自転車がすぐに見つかった。Progressive(進歩的な人)という名前の白い自転車。サイズもぴったり。とにかく親切で分かりやすい説明なので、安心して買い物が出来る。前後のライトやスタンド、防犯登録、ワイヤーキーはこちらが言う前に割引してくれた。

ペダルがついていなかったので、16時には完成させておいてくれると言う。ついでにマサイが4年前にトライアスロンに出て以来あまり乗っていないロードバイクのメンテもやってくれるというので、取りにくる時に持って来る事にする。

16時に取りに行く。受け渡しの時に、おニューの自転車を前に写真を撮ってくれた。ホームページに載せてくれるという。息子はピースサインで写っていた。余程気に入ったらしい。最後は若い店長ともども見送ってくれた。

息子はこの自転車を「Super Y Pop号」と名づけていた。早くこれに乗って出かけたくてしようがないらしい。自転車もさることながら、お店の人たちの気持ちが良かった。帰った後も、あの店で買って良かったという満足感に細君と浸っていた。変な話だが、あそこで買った自転車なら事故に合うはずもないと思えた。人の安心感が自転車の安心感につながっている。

サドルとハンドルに手を置いて、この自転車で事故にあったり、巻きこまれたりしないように、盗難にあったり、悪戯をされたりしないように祈る。息子は「自〜転車、自〜転車、早くボクの自転車に乗りたいなぁ〜、ボクの自転車に〜」状態でハイになっている。自転車をこいでついた筋肉は、背泳ぎに役立つと聞く。背泳ぎの苦手感がこれで克服される事を期待する。

箴言12:25
親切なことばは人を喜ばす。

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